June 25, 2010
viBirth Artist Interview♯021『watanabe takashi』

| これまでに様々なCMや映画の音楽を手掛け、2010年2月にベルリン映画祭、5月にはカンヌ映画祭に招待されるなど、精力的な活躍を続ける音楽家、渡邊崇氏。この6月に東京で開催された「ショートショート・フィルム・フェスティバル」にも参加した氏に、そのユニークな経歴と音楽観、そして独自の哲学について聞いてみた。 ―音楽の原体験はどのようなものだったのですか? 父親が音楽好きで家にレコードがたくさんあったんです。あと、父は民族楽器を集めるのが好きで、家の中にいろんな楽器が置いてあって、ピアノもありました。レコードはジャズや映画のサントラ、あと日本の全国各地のお祭りを録音したレコードとかあって(笑)、割とそういうものを聴いてました。そう考えると結構今やっているものと繋がってましたね。 ―なるほど、プロフィールを拝見したんですが、何でも最初はバンドをやられていて、それから大阪音楽大学へ入学したとか? そうですね。バンドをやっていたんですけど、鳴かず飛ばずで、これではどうにもならないなと思ってた時に、知人の紹介を通して「映像の音楽をやってみませんか?」という依頼があって、それでやってみたらこれが意外と評判が良くて、NHKの「デジスタ」っていうアマチュアの映像作家が投稿する番組があったんですけど、初めて音楽を手がけた映像作品がたまたまそれに選ばれて、テレビでオンエアされたんです。それがきっかけでバンドから映像音楽作家の方へ移っていったという感じですね。そのときに独学で初めて楽譜らしいものを書いてみたんですけど、それが意外に上手くできたので、「これはしっかり勉強すればいけるかな」と思ったんです。で、一念発起して勉強してみるか、と考えて27歳頃に音大に入って。それまでの一年間はもう必死に勉強しましたね。同時に大工の仕事もやっていたので、仕事の休憩時間の合間や終わったあとにひたすら勉強して、ちょっとでも座ったら寝てしまうような。かなり過酷でした(笑)。 ―過酷ですね……。それで大学に入って知識を一通り身につけて、で、その後にCM音楽を手がけるようになるんですよね。 さっきの「デジスタ」がきっかけで様々な映像作家さんと仕事をさせてもらうようになったんです。で、音大の卒業間近ぐらいに作った映画が、ドイツの「Nippon Connection」という映画祭に招待されたんですよ。それにみんなで行ったんですけど、ああいう映画祭ってCMディレクターの人が普段CMではできないような映像を作って持ち込んでたりしていて。で、その映画祭で自分のデモ曲を入れたCDを周りの人に配っていたんですけど、その中に今CMとか映画で一緒にずっと仕事をしている平林勇という監督さんがいて。それがきっかけで平林さんと知り合って、一緒にやるようになったんですね。で、その平林さんを通して音楽プロデューサーの方から別の監督さんのCMの作曲のお仕事をもらえるようになって。最初は作曲だけを担当していたんですけど、そのうち音楽のプロデュースからやってくれっていう話も来るようになって、今は作曲もプロデュースもどちらも手がけている感じですね。 ―CMの音楽プロデュースというのはどのような仕事なんですか? だいたい演出コンテを見て、「じゃあこういう曲で行きましょう」っていうところから、スタジオやミュージシャンの手配とか、あと音楽に関する全体の予算の管理とか、そういうところまでやっています。 ―CM音楽というと、それまでの自分自身の音楽とはやはり勝手の違う物になると思うのですが、その辺の違いに対して渡邊さんはどのようなスタンスで作っているのでしょうか? CMってクライアントさんの要望があって、監督の要望があって、お客さんのクレームがあって、障害物競走みたいな面白さがありますね。いろんな条件をこなしていってこれでどうですか? っていう。でも、かといってそれで平々凡々なものを作ったのでは次から仕事が来なくなるので、そこに何かしら目新しさであるとか、独創的なものを盛り込んでいくっていうその辺の面白さですね。単純な自己表現としての仕事ではないじゃないですか。音楽家というよりは音楽職人みたいな。逆に、そういう仕事をするようになって自分の音楽を客観的に見られるようにもなったので、それがアーティストとして活動するときに役立っていますね。第三者として自分の音楽を見ていられるというか。 ―そうやっていくとやはり「音楽家」としても鍛えられますよね。 そうですね。昔大学の授業ですごくいい先生がいて、その方が作曲のことを「発想と知性のせめぎあいだ」と言ってたんです。音楽って響きが色々あって、重なり方とか繋がり方に関してはある程度数学的な部分があるんですよ。そういう部分を先生は「知性」と言って、一方で人間には想像力や閃きっていうのがあるじゃないですか。それが「発想」で。音楽にはその両方がないと駄目で、「閃き」としては音楽はこっちへ行こうとしてるんだけど、「数学的」にはそういう風にはうまくいかなかったりすることもあるので、そのふたつの部分がうまくせめぎあわないと駄目だって。ま、作曲においてもプロデュースにおいてもそういうところはあると思いますね。 ―ロック・ミュージシャンは基本的にどちらかというと「閃き」の部分が重視されますよね。 そうですね。まぁジャンルによるんでしょうけど。ぼくは昔は「ギュオーン」って感じのノイズが好きだったんです。そういった音楽は割と発想でいくんですけど、ぼくが最近やっているのは割とクラシックがベースになっているので。昔はアヴァンギャルドな音楽をやっていたんですが、そこから武満徹さんであるとか、現代音楽を聴くようになり、そのまま遡るようにしてクラシックへと進んで行きました。あと、ジョン・アダムスという作曲家にも影響を受けましたね。 ―面白いですね。たしかに2009年のセカンド・アルバム『soil』でも突然ノイズが聞こえてきたかと思えば、民族音楽のような旋律も聞こえてきたり、歌ものがあったり、クラシックな曲があったりと、結構ヴァラエティに富んだ内容で、すごく刺激的で面白いんですが、今のお話を聞くと、ある意味渡邊さんの音楽遍歴がここにそのまま表れているのかな、と。 そうですね。別にヘンな組み合わせを狙ったとかではなくて、今までやってきたのを並べたらこうなったっていうだけなんです。このアルバムはこれまでの自分に音楽遍歴が表れている感じで、今までCM作品や映画のために書いた曲をアルバム用に直して作ったんですけど。曲ごとに映像の監督が違うので、ひとりで作ったと言うよりは、監督と共作したという感じがあるので、バラエティに富んでいるというか。いろいろなタイプの曲が並んでいておもしろかったですね。 ―では音楽を作るときは映像監督と綿密に話し合って作るという感じですか? そうですね。だいたい企画を聞いて、絵コンテやイメージとなる写真をもらったりして、割とヴィジュアルから音をイメージすることが多くて。最初に良く聞くのは「どういう楽器のイメージですか?」っていう質問ですね。「ギターのイメージで」とか「ピアノのイメージで」とか。逆に「どんな曲ですか?」って聞くと曖昧で抽象的になってしまってわからなくなってしまうことが多いので。あと、作曲するときはピアノを使うことが多いんですけど、頭の中でそれをヴァイオリンとかトランペットの音色に置き換えたりするっていうことが身につきました。これは訓練の成果ですね。作曲って何段も同時にいろんな楽器を考えていくので、毎日そういうことを想像しながらやっていたらいつの間にかできるようになりましたね。まぁでも毎日やっていれば他の人も結構できるようになるとは思いますけどね。 ―でも、その「毎日やる」ということがなかなかできるものではないと思いますね。逆に渡邊さんの作曲の原動力の元となるものって何ですか? なんでしょうね。毎日やってきたので、逆に作曲をしないと気持ち悪いんですよ。なんかイライラする(笑)。作曲ってパズルのようなもので、パズルって解けた瞬間に脳内物質がすごい出るじゃないですか。完全にあれですね。作曲中毒です(笑)。 ―なるほど(笑)。そういえば、今年の5月にフランスのカンヌ映画祭に出席されたそうですけど、如何でしたか? やっぱり世界最高峰って感じでしたね。2月にドイツのベルリン映画祭にも行ってるんですけど、やっぱり規模が違うし。今年のカンヌは規模が小さかったらしいんですけど、それでも相当派手で、映画を作ってる人間に対する街の人のリスペクトがすごいんですよ。レストランに入ったら「お前監督か?」って言われて、それだけで料理が出てくるっていう(笑)。あとプロになったのが30歳になってからなんで、正直もう駄目かっていう時期もあったんですけど、カンヌで上映される時に「作曲家の渡邊崇」って紹介されて、ステージに向かって花道を歩いて登壇するんですよ。その時会場がものすごい拍手と歓声で呼び込まれるんですね。もちろん、その人たちは僕のことを知ってるわけじゃないんですけど、この舞台に来て作曲家として紹介されたお前すごいな、っていう感じで。つい数年前まではアマチュアで辞めようとか思ってたのに、「プロになったんだな~」って感激しましたね。 ―今年のカンヌは北野武監督の「OUTRAGE」も上映されていたんですよね。あれは作曲家という視点から見て如何でした? 映画音楽って、目新しいものって殆どないんですよ。上手い下手はあるんですけど、「これ新しいな」っていうのはなかなかなくて、でも、「OUTRAGE」のオープニングは音楽の付け方がすごく新しくて。映像の暗さに対して、妙に明るい音楽だったんですね。あれは新しいな、と思いました。その新しさは早速今作っている映画音楽の参考にさせてもらっています。あれは発見がありましたね。 ―今も映画音楽を制作中なんですね。 ええ、平林さんと新しい映画を作っていて、もうすぐ出来あがるんですけど、それはイタリアのベネチア映画祭に応募しようと思っています。2月にベルリン、5月にカンヌ、で9月にベネチアと1年に3大映画祭に別の映画で行った人っていうのはたぶん歴史上いないんですよ。だからそれを狙ってるんです(笑)。でも日本では取り上げられないかもしれない。そもそも日本には短編映画を観るっていう土壌がないんですよね。 ―たしかにそういう風潮はあるかもしれないですね。でも今回渡邊さんが参加されている「ショートショート・フィルム・フェスティバル」という催しは、そういった風潮を改善しようとする試みなのかもしれませんね。今回は山田雅史さんの映像に曲を提供されたそうですね。 この曲は元々平林さんの映画「BABIN」のために書いたんですけど、それを新しくアレンジし直してセカンド・アルバムに入れたものだったんですよ。実は山田さんとは昔から知り合いで、「こういうイベントがあるからやってみない?」って声をかけたんです。 ―CMと映画音楽ってやはり違いがあると思うんですけど、渡邊さんの映画音楽に対するスタンスは? CM音楽って基本的に名前が出ないじゃないですか。でも映画の場合は「映画音楽作家」として名前が出るので、めちゃくちゃ自己主張しますね。もちろん「自己主張」といっても映画と関係ないものではなくて、僕なりの「映画音楽哲学」というものがあって、映像をどう引き立たせるかっていうことをすごく主張して曲を書きますね。だから最終的に監督とそりが合わない時もあります。どっちも曲げられない、みたいな。でも仕事として引き受けたからには最後までやるんですけど。そういう時はこっちも折れて、相手の意向に沿う曲を書くんですけど、映画のエンド・クレジットには名前を載せない。自分の主義を折ったときは名前は載せないようにしています。だから印税も入って来ない(笑)。でも「渡邊崇」という看板があるのでそこは曲げられない。 ―その哲学というのは端的にいうとどのようなものなのでしょう? 映画とか舞台の音楽って割と慣習というか、こういうシーンにはこういうシーンだろうってお決まりの音楽っていうのがあるんですね。で、それでいいって思ってる人が多いんですよ。だからそれ以外のことをやるとすぐに拒否反応を示す人がたくさんいる。「いや、そうじゃないだろう」っていうことですね、端的に言うと。例えば、悲しいシーンがあったとして、悲しい音楽を流すのが普通なんですけど、人間ってそんなに単純じゃないじゃないですか。「悲しいな」と思っていてもどこかで「お腹空いたな」と思ったりもするじゃないですか(笑)。人間ってすごく複雑で込みいってるもので、音楽っていうのはそこら辺の心情を汲み取ってあげなければいけないのに何でそんな単純に……っていうところですね。で、そういうことを考えながらやっている作曲家さんというのはいるとは思うんですけど、大多数ではないというか少数派だと思いますね。……あと、「韓流ブーム」ですね。あれは手強いです(笑)。もう悲しい場面では悲しい音楽が流れるという。徹底してますよね。ああいうものを求められてしまうのがあのブーム以来多いんですよ(笑)。韓国映画自体はすごく面白い作品もあるんですけどね。そっちじゃなくてあっちの方ばかり……。だいぶ浸透しちゃってる感じですね。かなり手強いです(笑)。 ―なるほど、それはどうにかしないと(笑)。ところで、最近は神戸電子専門学校のスタジオでの録音の模様を学校の生徒の方に公開しているという試みをやっているそうですね。 これはまず制作費を安く押さえるっていう一面もあるんですね。スタジオにかかるお金を抑えることによって、少ない予算でもミュージシャンにお金をかけられる。一方で、神戸電子専門学校の生徒に見学してもらうことで生の制作現場を体験してもらうという面もあります。僕も音大を卒業して作曲家になって初めてスタジオで仕事をした時とか、スタジオの制作の流れというのを全く把握していないままにいきなり入っちゃったんで、すごく戸惑ったんですよ。だからそういう流れがわかっていたらこんなに苦労はしなかっただろうなって思いがすごくあって。学生さんにそういうものを見せるということも未来の巨匠の卵たちにとってはいいんじゃないかと。僕が将来仕事がなくなった時にその卵たちが仕事をくれるかもしれないし(笑)。でもプロの作曲家がいて、プロのエンジニアがいて、プロのミュージシャンがいて、その一連が見れるわけですからね。 ―たしかに。では最後に、渡邊さんの今後の目標は? そうですね。映像音楽の第一人者になりたいです。あとは海外の監督ともっと積極的にやっていきたいですね。今ちょうどフランスの監督とやりとりをしていて、それが実現するといいなと。今は外国語を必死に勉強しています。やっぱりカンヌに行って刺激を受けましたね。もう一回ここに来たいなと。そして、映画音楽といえば「渡邊崇」と言われるようになりたいですね。韓流に負けずに(笑)。 取材、文/佐藤一道 |
| ■watanabe takashi:http://www.vibirth.com/artist_detail/watanabetakashi ■watanabe takashi、2nd Album[SOIL]はこちらから。⇒viBirth MEGASTORE ■渡邉崇総合プロデュースイベント『sound on film』のVol.16が開催決定!!! 今回は、渡邉さんとも縁の深い、世界から賞賛を浴びる「平林勇」の作品を大特集! Sound On Film vol.16 平林勇特集!! とき:2010年6月27日(日)12:00〜 ところ:event space 『雲州堂』大阪市北区菅原町7-11 詳しくは⇒sound on film |